配転や出向、転籍といった人事異動の命令においては、正当な理由のない人事や解職などの不当な取り扱いや不当な労働条件の要求を回避するためにも、その法的な根拠や根拠規定を確認しておくことが重要です。
■人事異動について
人事異動とは、同一の会社組織の中で、従業員の地位や配置、勤務状態を変更することをいいます。
もっとも、一言で人事異動といってもその形態によって、配転、出向、転籍、の3つに分けることができます。
・配転
「配転」とは、配置転換の略語であり、「異動」という場合には、一般に配転のことを指します。
具体的には、己の雇用先企業の範囲において、社員の職務内容や勤務場所といった配置を自相当な期間に渡って変更することをいいます。
配転については、直接の根拠法令はなく、労働契約や就業規則の規定による場合や、個別の合意により行う場合があります。
・出向
出向とは、被雇用者が自己の雇用先企業における従業員としての籍を維持したまま、相当な期間に渡り、親会社や子会社などの他企業の業務に従事することをいいます。
根拠法令としては、労働契約法14条が挙げられますが、出向命令権の行使が権利濫用として無効になる場合の基準について規定しているにとどまり、定義規定はありません。
配転とは、従業員の地位を維持するという点では同様ですが、雇用先企業の範囲外の企業で働く点で性質が異なっています。
・転籍
転籍とは、被雇用者が自己の雇用先企業から他企業での業務に従事するために、雇用先企業との労働契約関係を終了させて、従業員としての籍を移すものをいいます。
配転とは、他企業で働くことと、元々在籍していた会社との雇用関係が終了する点で性質が異なっています。
転籍は、現在の労働契約の合意解約と新たな労働契約の締結、あるいは現在の労働契約上の使用者の地位の譲渡を法的な根拠としています。
もっとも、いずれにしても被雇用者の個別的な同意が必要となります。
■異動を無効にできる場合
一般的に、人事異動は労働協約や就業規則等に根拠規定や同意規定が明記されています。
こういった規定がある場合には、原則として、会社は従業員の配転命令権を有しているため、会社側に人事異動についての裁量が認められています。
もっとも、会社に人事異動についての広範な裁量が認められているとしても、無制限に権利行使が認められているわけではありません。
具体的には、命令権の行使が権利濫用であると認められる場合には、例外として、異動が無効となります。
具体的には、以下の場合に異動命令が権利濫用として無効となります。
①異動に業務上の必要性がない場合
②異動に業務上の必要性がある場合であっても、当該異動命令が不当な動機・目的を持って行われたとき(例:従業員を職場から排除する目的や退職させる目的等)
③異動に業務上の必要性がある場合であっても、従業員に対し著しく職業上または生活上の不利益を与えるとき(例:大幅な賃金の引き下げ、本人や家族の病気、介護、共働き等の家庭の事情)
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